最後のRadiohead

2007 BLOG

ダウンロードしたリスナーが値段を決める “Pay What You Want”方式で話題をよんだRadioheadのアルバム、”In Rainbows”のウェブ上での配信が終わったようだ(http://www.inrainbows.com/)。6割の人が一銭も払わなかったとか、全体で数億円の収入があったとか、いろいろと噂されているようだが、お金の事はともかく2007年最も愛されたアルバムだったことまず間違いない。

下のスクリーンショットは先週のLast.fmのチャートだが、なんと驚いた事に1位から10位までを In Rainbowsの曲が独占している。
( Last.fmは、iTunesなどののプラグインを使って、ユーザのコンピュータで再生された回数をカウントしているサイト)

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過去のチャートにさかのぼってみると、アルバムがリリースされた10月10日の週から、ずっとこの状態が続いている事がわかる。


アルバムリリースの前週のチャート
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アルバムがリリースされた週のチャート
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最新のチャートはこちら

これだけ多種多様な音楽が出回っている中で、アルバムの全曲がチャートを独占するなんてことは、異常事態としかいいようがない。今後、この状態がいつまでつづくのか注意して見ていきたいところだ。

ちなみに、In Rainbowsは従来の音楽チャートにはランクインしていないはず (だって、CDでは売ってないんだから)。こうやってみると、オリコンなどのCDの売り上げをベースにした「チャート」の限界がはっきり見えてくる。
ダウンロード配信が終了した現在は、CDとレコード、ブックレットなどが入った豪華なBoxセットを、40ポンド (約9000円) で販売中だ。特に熱狂的なファンが購入する事を見越しての強気の値段設定だが、ダウンロード配信で獲得した新たな膨大な数のファン層を考えると、これも間違いなく売れるだろう (ただ、これもやはりオンラインでの販売になるので、チャートに載る事はないのだろうな)。

ただし….

このPay What You Want方式を民主化された新しい音楽ビジネスの形だとして、褒めそやすのは大きな間違い

In Rainbowがこれだけの成功を収めたのは、この新しい販売方式によって新しいファン層にリーチできた、あるいはこの販売方式がもたらした話題性 などの要因があるが(あとは当然、楽曲の良さも)、まず第一にこれまでにRadioheadが築いてきたファン層があったはず。Radioheadがファン層を築き上げる過程では、インターネットではなくてテレビ、ラジオ、音楽雑誌などのマスメディアと、大手レコード会社の旧来型の大規模なプロモーション活動が大きな役割を果たしていたことを忘れてはいけない。

インターネットによって、ニッチなアーティストが(それなりに)成功する余地が生まれる・・・ ロングテール論などで繰り返し語られている議論だが、Web 2.0/ロングテールの時代に新しいRadioheadが生まれてくるのだろうか。いいかえると、突出した才能に見いだし育てあげる機構が、ネットの世界に創発的に作られていくのか。それとも、ニッチなアーティストが割拠するひたすら混沌とした状態になるのか。ひょっとしたら、In Rainbow (と、もしかしたらその後に続く数枚のアルバム)の成功は、マスメディアの時代とインターネットの時代の狭間だからこそ生まれ得た特別な現象になるのかもしれない。

全くの余談だが、12月9日のNew York Timesの記事によると、Max/MSPのライセンスをなくしたRadioheadのメンバーが、Cycling’74(Max/MSPの開発元)にその旨メールしたところ、

“‘Why don’t you pay us what you think it’s worth?’” (ふさわしいと思う分だけ払ってくれませんか?)

という返事が返ってきたという(via 城君)。 どこまで冗談なのかは分からないが…

Why don’t you pay me what you think this post is worth? :-)