[番外編] 2006年に読んだ本 #1

2007 BLOG

昨年を振り返る意味も含めて。簡単にまとめておきます。

まずは、ここ数年読んだ本の中で一番面白かった本と断言できる一冊。 


眼の誕生――カンブリア紀大進化の謎を解く” (アンドリュー・パーカー)

化石などの様々な証拠から、今から5億4千万年前前後の1000万年という比較的短い期間に、現存するあらゆる生物種の祖先が急激に進化したとされている。この「カンブリア大爆発」が起きたのは、ちょうどこの時代に、光という刺激を感知する新しい器官「眼」が進化の末に誕生したためであるという新しい説が展開される。直感的でわかりやすい説だが、著者のパーカーはそこにいたるまでの思考の過程を一つ一つ順に追って丁寧に説明しているために、非常に説得力がある。なぜ貝の内側は虹色をしているのか、魚の背びれ側が青くておなかが白いのはなぜか、ネコの眼が光るのはなぜかなどなど、動物がもつ様々な色と進化の意外な関係も明らかにされる。

あらゆる生物が手探りで動き回っていた「暗黒」の先カンブリア紀。眼を持つ三葉虫が進化の末に生まれ、動物の世界に初めて光が差したその瞬間、恐竜や人間に至る進化の躍動が端緒についたその瞬間を、美しく描いている(次に紹介する本で、ドーキンスの言っている科学の美しさってこういうことなんだろうか)。最後はまさに推理小説を読み終わったときのような爽快感といってもいいくらい。

音楽に携わる人間として、どうして「耳」ではなくて、「眼」の誕生がそれほどまでに進化に大きな影響を与えたのか気になるところであるが、昼間であれば常に降り注いでいるという日光の普遍性(深海や洞窟などはのぞいて)と遠くまで伝わるという光の特性がキーらしい。要するに、距離が遠くなると音はすぐに減衰してしまう上に、そもそも対象物が音を出さないと耳では感知できないということ。もし、もしカンブリア紀の地球が常に霧に覆われているような見通しの悪い状態で、かつ常に一定の音があって(たとえば常に一定の地鳴りがしている)反射によって周囲の状況が分かるような状態(目の不自由な人は地面を杖でたたいてその反射音を聞くことで障害物のあるなしを判定しているそうなので、あながち不可能ではないはず)であったならば、光ではなく音によって周囲の環境情報を得るように進化が進んでいたかもしれない…. そうなったら、現存する生物種はいずれも耳で周囲を「見る」ようになっていたのかもしれない… そんなことを考えた。

次は、コンテキストはまるで違うが、科学/学問と社会、文化の関わりを考えさせられた二冊。


虹の解体いかにして科学は驚異への扉を開いたか” (リチャード ドーキンス)

ベストセラー「利己的な遺伝子」で知られる進化生物学者が、科学が持つ「良質な詩性」を語る。
ドーキンスは最新作 “The God Delusion” で、宗教を断罪し、英米で議論の渦を巻き起こしているらしい。BBCの連続ドキュメンタリー The God DelusionThe Virus of FaithがYouTubeで公開されているので、ぜひ見ていただきたい。「宗教的信念という思考停止」(ドーキンスの言葉)がいかに危険か、納得できるはず。


天皇と東大
大日本帝国の生と死 ” (立花 )
天皇と東大 大日本帝国の生と死 ” (立花 )

近代文明国としての日本、天皇中心の国家主義的日本の成立に東大という教育機関が果たした役割を膨大な資料をもとに描く。神格化されるのを嫌がった昭和天皇と政治的思惑のために天皇を利用した政府と軍部。その理論的な裏付けを与えた東大教授たち…