[日誌] WWDC’08にみるAppleの戦略とiPhoneの行方

2008 BLOG

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先週一週間、AppleのWWDC(World Wide Developer Conference/開発者会議)に参加してきました! WWDCの前後にロサンゼルスとシリコンバレーを回ってきたので、そのあたりの話をこれからしばらくの間、書いていきます。まずはWWDCとiPhoneについて。

今回のWWDCは、3Gに対応したiPhoneの発表などがあったために日本のメディアでも大きく取り上げられたようですね。WWDCはMacのソフトウェアの開発に関する情報交換の場なのですが、今年はiPhoneの話題に乗っ取られたような感じでした。当初から3G iPhoneのリリース自体は噂されていましたが、価格設定(199ドル~)と発売時期(7/11)の発表は驚きをもって受け止められました。特に価格が発表されたときには会場全体が大いに湧きました。

日本での発売に関しては、つい先日ソフトバンクとの提携が発表されたばかり。プレスリリースの「年内に発売」という言葉に、クリスマス商戦への投入を予想していたのですが… 予想を上回る急ピッチでの市場投入に、開発スケジュールを前倒しするなどの対応を迫られることになった開発者も多いのではないでしょうか。

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今回のWWDCで、一番印象に残ったのがMacのプラットフォームにどんどん開発者が流れてきているという点です。象徴的だったのが、セッション中の「これまでにObjective-Cを何年くらい触ってきたか」という質問。今までのWWDCだったら、ほとんどの人が経験者だったのですが (15万円も払ってくる訳ですから、それなりの「強者」なのは間違いないでしょう)、今回のWWDCでは半分強の人が「これから始める」もしくは「初めたばかり」に手を挙げていました。実際にWWDCの参加者は過去最高(5700人)を記録。このうち日本からの参加者は、例年の10倍近い300人にも及んだようです。

やはりiPhone効果なのでしょう。プラットフォームとしてのiPhoneに魅力を感じた人が、(渋々ながらも!?)Objective-CとCocoaの世界に飛び込んできているという感じでしょうか。iPhoneによってCocoaプログラマ特需が来るかも、という予想(by 永野くん)がまさに実現されるのを感じます。

いったんiPhoneのアプリケーション開発に慣れてしまうと、Mac OS Xのプログラムを書くことも抵抗なくできるようになります。同じ言語とほとんど同じAPIを使っているわけですから、当然のことですよね。また、iPhone上で作ったアプリケーションをMacに移植するのもごく自然な流れ。こうして少しずつMac OS Xの開発者が増えていくと、より魅力的なソフトウェアがMacのプラットフォーム上に増えていく… パーソナルコンピュータの分野では、MS Windowsに圧倒的なシェアを奪われているMacですが、モバイル端末という比較的未開拓で群雄割拠状態の市場で主導権を握ることで、PCの方でもプレゼンスを高めていく、そんなAppleのしたたかな戦略が透けて見えてきます。

とはいえ、この特需が続くのかどうかは、iPhoneの売れ行き次第。iPhoneがそれなりに売れてくれないことには、市場として魅力のあるプラットフォームにはならないわけです。そのあたりの予想は、すでに多くの人が書いてることなので、ここで繰り返すことはしませんが、僕自身は間違いなく売れるだろうと思っています。

一部で日本のケータイ特有の機能(おさいふケ−タイ)や、コンテンツ(i-mode、ケータイゲームなど)がないという点を不安材料として、取り上げる人もいるようですが、僕はその辺りはほとんど問題ないと思ってます。購買層が違うからです。普段、PCを中心に使っているコアなインターネットユーザで、操作性の悪さ/ユーザ体験の貧弱さからケータイの使用はなるべく避けたいと思っているような層に、iPhoneは確実に受け入れられることでしょう。

それでも今までのMacのユーザよりはずっと広い購買層が対象になります。従来のMacの開発者が広い層にアピールするアプリケーション/サービスを提供できるかどうか、あるいは従来のケータイコンテンツの開発者が参入しやすい環境を整えられるかが、iPhoneの売れ行きに影響するように思います。

いずれにしても発売まで一ヶ月。どんなアプリケーションが登場するのか、どのように市場に受け入れられるのか。非常に楽しみです。


“The iPhone Developer’s Cookbook: Building Mobile Applications with the iPhone SDK (Developer’s Library)” (Erica Sadun)