最後のRadiohead

ダウンロードしたリスナーが値段を決める “Pay What You Want”方式で話題をよんだRadioheadのアルバム、”In Rainbows”のウェブ上での配信が終わったようだ(http://www.inrainbows.com/)。6割の人が一銭も払わなかったとか、全体で数億円の収入があったとか、いろいろと噂されているようだが、お金の事はともかく2007年最も愛されたアルバムだったことまず間違いない。

下のスクリーンショットは先週のLast.fmのチャートだが、なんと驚いた事に1位から10位までを In Rainbowsの曲が独占している。
( Last.fmは、iTunesなどののプラグインを使って、ユーザのコンピュータで再生された回数をカウントしているサイト)

Picture 1-16

過去のチャートにさかのぼってみると、アルバムがリリースされた10月10日の週から、ずっとこの状態が続いている事がわかる。


アルバムリリースの前週のチャート
Picture 5-5

アルバムがリリースされた週のチャート
Picture 6-1
最新のチャートはこちら

これだけ多種多様な音楽が出回っている中で、アルバムの全曲がチャートを独占するなんてことは、異常事態としかいいようがない。今後、この状態がいつまでつづくのか注意して見ていきたいところだ。

ちなみに、In Rainbowsは従来の音楽チャートにはランクインしていないはず (だって、CDでは売ってないんだから)。こうやってみると、オリコンなどのCDの売り上げをベースにした「チャート」の限界がはっきり見えてくる。
ダウンロード配信が終了した現在は、CDとレコード、ブックレットなどが入った豪華なBoxセットを、40ポンド (約9000円) で販売中だ。特に熱狂的なファンが購入する事を見越しての強気の値段設定だが、ダウンロード配信で獲得した新たな膨大な数のファン層を考えると、これも間違いなく売れるだろう (ただ、これもやはりオンラインでの販売になるので、チャートに載る事はないのだろうな)。

ただし….

このPay What You Want方式を民主化された新しい音楽ビジネスの形だとして、褒めそやすのは大きな間違い

In Rainbowがこれだけの成功を収めたのは、この新しい販売方式によって新しいファン層にリーチできた、あるいはこの販売方式がもたらした話題性 などの要因があるが(あとは当然、楽曲の良さも)、まず第一にこれまでにRadioheadが築いてきたファン層があったはず。Radioheadがファン層を築き上げる過程では、インターネットではなくてテレビ、ラジオ、音楽雑誌などのマスメディアと、大手レコード会社の旧来型の大規模なプロモーション活動が大きな役割を果たしていたことを忘れてはいけない。

インターネットによって、ニッチなアーティストが(それなりに)成功する余地が生まれる・・・ ロングテール論などで繰り返し語られている議論だが、Web 2.0/ロングテールの時代に新しいRadioheadが生まれてくるのだろうか。いいかえると、突出した才能に見いだし育てあげる機構が、ネットの世界に創発的に作られていくのか。それとも、ニッチなアーティストが割拠するひたすら混沌とした状態になるのか。ひょっとしたら、In Rainbow (と、もしかしたらその後に続く数枚のアルバム)の成功は、マスメディアの時代とインターネットの時代の狭間だからこそ生まれ得た特別な現象になるのかもしれない。

全くの余談だが、12月9日のNew York Timesの記事によると、Max/MSPのライセンスをなくしたRadioheadのメンバーが、Cycling’74(Max/MSPの開発元)にその旨メールしたところ、

“‘Why don’t you pay us what you think it’s worth?’” (ふさわしいと思う分だけ払ってくれませんか?)

という返事が返ってきたという(via 城君)。 どこまで冗談なのかは分からないが…

Why don’t you pay me what you think this post is worth? :-)

3 Comments

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SLOGANくまがい
December 20, 2007 at 9:28 pm

私も某音楽誌でRadioheadについて書いたところです。
彼らは大したものですね。
音楽はもちろんだけど、なんというか、時代との向き合い方がうまい。

ネットと音楽の関係については一言でコメントすべきことでもありませんが、
既得権の問題と、「ネタ」的に消費されがちなネット上のある傾向に
関わる問題が感じられるような気がします。
単純に、知らないアーティストの音は、1分聴く気にならない……。
むしろ使った時間のぶんお金払ってよと言いたくなる時もあったりして。

音楽の持つworthの位置付けをより細密に分析する必要がありそうですね。

nao
December 21, 2007 at 2:52 am

コメントありがとうございます。くまがいさんのコメント、実は初めてだったりします?

「ネタ」は僕の中でも最近のキーワードだったりします。最近、僕より若い世代の人たちに接していて、情報の受け取り方が全く違うということを実感してます。

僕なんかは情報に関して「貧乏性」が染み付いているんでしょうか。自分の興味ある分野の情報はできるだけ全部摂取したいという欲求が強く働いて、fed upしちゃうことがよくあるんですが、若い世代は情報なんて溢れていて常に流れていくもんだというある種の達観があるんですかねー。普段はさらっと流してて、たまに面白いと思ったところだけネタとしてパッと取り上げるのが上手な気がします。

「ネタ化する音楽」 と「音楽の価値」 考えてみます。

今後もコメントよろしくお願いします :-)

かつて音楽と呼ばれたもの » Blog Archive » テレブの時代
December 23, 2007 at 2:05 am

[…] # うちの奥さんが先日面白い事を言っていたので、その「ネタ」を拝借! 前回のRadioheadネタの続きでもある。 […]

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