高校生への回答 – iPhone、iPodと音楽の未来

  「新聞部の生徒たちが音楽について特集したいそうなので、君の立場から思うことを書いてあげてほしい」

母校・金沢大学教育学部附属高校の恩師からの突然の電話。その数日後に初々しい取材のメールが届きました。

  1.   徳井さんにとって、音楽とはなんですか?
  2. 高校生にとって、携帯型デジタルオーディオプレーヤー(アップル社のiPodや、ソニーのウォークマンなど)は、どんな場面でどんな風に使うのが理想だと思われますか?
  3. 携帯型オーディオプレーヤーはこの先の未来でどんな進化を遂げ、どのような可能性を秘めているものであると思いますか?
  4. この先の未来において、音楽はどのような役割を果たし、どんな可能性を持っているものであると思いますか?
  5. 携帯型オーディオプレーヤーによって、今後音楽そのものや音楽の楽しみ方が変わっていくことはあるでしょうか。また、どんな風に変わるでしょうか。

いずれもシンプルですが本質的な質問で、答えるのに苦労しました。前提知識の少ない高校生に誤解を与えないように、なるべくわかりやすくなるようにと気を使って書いた文章です。新聞部さんの許可を得て転載します。

今の高校生と言えば、ものごごろついた頃から、PCとインターネットに囲まれて育った最初の世代ではないですよね。小学生くらいの頃から、CDRを焼いて友達とmp3を交換したり当たり前にしてるんでしょうか…。10代の彼らが音楽の未来について今どのように考えているのか、ぜひ聴いてみたいところです。

1. 徳井さんにとって、音楽とはなんですか?

単純に「No Music No Life」なくらい大好きなものです。と同時に、テクノロジーが人間の創造活動に与える影響を考える上で、最適のプラットフォームであると考えています。

鉄鋼加工技術の進歩がピアノを生み、蓄音機とレコードが音楽産業やスターを生んだように、その時代のテクノロジーと音楽の間には切っても切れない深い結びつきがあります。また、デジタル化技術とCD、インターネットと音楽配信などの例でも分かるように、音楽は常にその時代の最先端のテクノロジーを先取りする芸術ジャンルでもあります。私にとっての音楽は、コンピュータを用いた自分自身の表現を通して、テクノロジーと人類の創造性の関係を考える実践の場です。

2. 高校生にとって、携帯型デジタルオーディオプレーヤー(アップル社のiPodや、ソニーのウォークマンなど)は、どんな場面でどんな風に使うのが理想だと思われますか?

(この質問が特に難しかった!こじつけっぽいかも…)

これは難しいですね。最低限のマナー(音漏れに注意するとか、授業中は使わないとか)を守って使ってほしいとは思いますが、それは誰にでも当てはまりますね。

もし特に高校生に対して意見があるとすれば、積極的に友人の携帯型デジタルオーディオプレーヤー(以下、簡単のためポータブルオーディオとしておきます)を借りてみてはどうでしょうか、というものです。若いうちから古今の様々なジャンルの音楽に触れておくことは、感性を柔軟にし、今後の生活をより豊かにしてくれるはずです。また、ポータブルオーディオは持ち主の音楽の好み、ひいては価値観を雄弁に物語ってくれます。よく知っているはずの友人の隠れた側面を見せてくれることでしょう。僕自身、大学の講義で学生に自己紹介を頼む際には、「最後に聴いた曲を一曲挙げる」ようにお願いしています。学生の名前と顔を覚えるのには最適な方法です!

あとは、耳を痛めないように注意してほしいということですね。余談ですが、iPodの米Apple社のCEOジョブス氏も、若い頃に大音量で音楽を聴きすぎたせいで聞き取りにくい音域があるそうです。そのため、iPodの標準の音量が他のポータブルオーディオに比べて大きくなっているという噂がまことしやかにささやかれています。歳をとってから後悔しないよう、耳は大事にしましょう。


“iPodは何を変えたのか?” (スティーブン・レヴィ)

3. 携帯型オーディオプレーヤーはこの先の未来でどんな進化を遂げ、どのような可能性を秘めているものであると思いますか?

まず間違いなく携帯電話、より正確にはインターネット端末との融合が進むと思われます。こういうことを言うと、「いつもケータイで音楽を聴いているよ」という方も少なくはずです。ただ、今のウォークマン携帯などは、携帯電話に音楽を再生する機能が付加されただけというものがほとんどで、せいぜい電話回線を使って購入・ダウンロードした音楽を聴くことができるといった程度でしょうか。

今後電話回線を使ったデータ転送がますます高速かつ安価になるにつれて、ネットワークの存在を前提とした音楽サービスがより一般的になるものと思われます。

インターネットのサーバ上にある音楽のオンデマンド配信などがその一例です。つまり、手元の端末に音楽データを持つことなく、聴きたい音楽を聴きたいときにネットを通して聴くというわけです。また、プレイリスト(お気に入り)や音楽に付随する様々な情報を友人と「共有」する、ソーシャルネットワーク(SNS)型のサービスも普及することでしょう。今年話題になったApple社のiPhoneでは、自宅のコンピュータ上のみならず、友人のコンピュータ上にストアされた音楽ファイルを、外出先でストリーミングによって再生することができるサービスなどが稼働しています。また、来年には日本に登場するGoogle Android携帯では、自分の周囲数百メートルにいる他のユーザと再生中の音楽の情報を共有できるサービスが導入される予定です。これによって、「今、片町(注: 金沢の繁華街です)付近では○○が流行っている!」といった情報がリアルタイムに得られるわけです。こうした次世代携帯プラットフォームが、今後のポータブルオーディオ、さらには音楽そのものの未来像を考える大きなヒントになると考えます。

ただ、こういったネットワークサービスが一般の消費者レベルで広まると、従来のCDやmp3データなどのパッケージ販売に基づくビジネスモデルは崩壊します。ポータブルオーディオがネットワーク化したとき、音楽産業は生き残りをかけた構造改革を求められるのではないでしょうか。

4. この先の未来において、音楽はどのような役割を果たし、どんな可能性を持っているものであると思いますか?

これまで通り、音楽はそれを聴く人に感動や興奮、あるいは安らぎを与えるものでありつづけるでしょう。また、人と人とをつなぐ役割を担い続けることは間違いないと思います。

ただし、産業として音楽を捉える場合には、全く別の視点が必要になります。上記のように、CDのようなパッケージの販売に基づくビジネスモデルが成り立たなくなると同時に、別のビジネスモデルの構築が急務となります。そうした新しいビジネルモデルが音楽に与える影響を無視することはできません。

海賊版が横行し正規のCDが売れない中国のような国では、現時点ですでに「音楽」=「広告」という構図ができあがりつつあります。具体的には、企業がバンドなどの「スポンサー」になるという仕組みです。バンドは企業と専属契約を結ぶことで、金銭的なバックアップを受け、かわりに企業の広告塔としての役割を果たします。CMに出演したり、企業の商品/ロゴを身につけることはもちろんのこと、歌詞の中にさりげなく商品を登場させたりするわけです。

自分の大好きな曲が実は企業が特定の商品を売るために制作されたと知ることはショッキングなことです。こうした傾向が、音楽文化の健全な発展を阻害しないか、消費者も含めて音楽に関わる人間が自らに問いかけ続けなければいけない問題だと思います。


“デジタル音楽の行方” (David Kusek, Gerd Leonhard)




5. 携帯型オーディオプレーヤーによって、今後音楽そのものや音楽の楽しみ方が変わっていくことはあるでしょうか。また、どんな風に変わるでしょうか。

iPodなどの普及で好きな曲を集めた「プレイリスト」で音楽を聴くことが一般化し、相対的に「アルバム」という単位の地位が低下したのと同様に、今後、新しいコンセプトのポータブルオーディオの普及によって音楽の聴き方/楽しみは必然的に変わっていきます。

こうした変化は何も最近のことだけではありません。SONYのウォークマンが最初に発売された当初は、音楽を一人で、しかも公共の場所で楽しむという概念自体が存在していませんでした。そのため、初代のウォークマンにはカップル/親子で一緒に音楽を楽しめるように、ヘッドホン端子が二つ用意されていました。しかし、実際には一人で好きな音楽を好きなときに楽しめるという点にウォークマンの魅力を見いだした消費者がほとんどで、それが今ではごくごく当たり前のこととして定着したわけです(参考文献: “実践カルチュラル・スタディーズ―ソニー・ウォークマンの戦略” (ポール ドゥ・ゲイ, リンダ ジェーンズ, キース ネーガス, ステュアート ホール, ヒュー マッケイ))。このように開発者の想定外の使い方を消費者が見いだしていくことで、新しい音楽の楽しみ方が自然発生的に生まれてくることでしょう。

今後の変化の方向としては、音楽体験の「共有」がキーワードになるものと想像しています。ウォークマンやiPodで「個」の楽しみに大きく振れた反動から、今度は「集団性」「社会性」が重視されるようになるのではないでしょうか。そこでは、上述したようなインターネットをはじめとするネットワークの力が大きな役割を果たすことは言うまでもありません。初代ウォークマンのように物理的にヘッドホン端子を複数用意する代わりに、ネットワークをつかって音楽体験を共有できるようになったわけです。音楽自体は元来、社会性が非常に高い営みであったはずです。現在の音楽サービスの流れは、テクノロジーの力を借りた原点回帰の動きと見ることもできるでしょう。

現在、上述のiPhoneやAndroidなどのプラットフォームを中心に、音楽と人間の新しい関わり方を巡って数多くの企業/研究者が研究開発を続けています。私自身もそうした研究者の一人です。こうした開発者側の営みが、創造的な消費者と出会ったときに初めて文化として根付いていきます。レコードの発明以来の大きな変化のただ中にあるといわれる「音楽」。みなさんのような若い消費者の動向が、未来の音楽の行方を左右する大きなファクターになることだけは間違いありません。

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