iPhoneは「プログラミングのできるウォークマン」ではなかった
僕がアメリカに行っている間に、「いつか音楽と呼ばれるもの」がアップデートされてました。今回は先日のIAMASでのプレゼンテーションの記録です。僕のバタバタなプレゼンと、プレゼン後の赤松さんとのディスカッションの模様をすべて観ることができます。お時間があれば、ぜひチェックしてみてください。
後半のiPhoneについてのディスカッションの中で、iPhoneの最大の魅力はiPhoneが「プログラミングのできるウォークマン」だということにつきるという趣旨のことを言いました。つまり、新しい音楽の聞き方/楽しみ方を、消費者に一番近いレベルで提案することができる。しかもそれが、一介のプログラマにも (SONYやAppleの開発者/デザイナでなくても)解放されている、という点に注目しているという話でした。ところが、iPhone SDK(開発キット)を触っていく中で、これらが実は「幻想」であったことに否応なしに気づかされました。
というのも、ユーザがiPhone内に保存しているmp3などの音楽ファイルへのアクセスが完全に禁止されているためです。つまり、ユーザがiTunesを経由してiPhoneにロードした音楽ファイルを、自作のアプリケーションから再生することができない、ということです。この制限によって、例えば次のようなアプリの制作が非常に困難になりました。
- DJ/マッシュアップ – ユーザが持っている音楽を自由にミックスするアプリケーション
- 音楽レコメンデーション – 加速度センサを使って取得したユーザの歩く/走るスピードに合わせてちょうどいいテンポの曲を自動的に選択してくれるアプリケーション
- 語学 – 外国語のダイアログをスピードダウンして再生するアプリケーション
一部でDJアプリケーションなどがすでに発表されていますが、この制限をどのようにクリアしているのか、注目したいところです。なんらかの方法でハックすることも考えられますが、Appleの規約を破るとAppStoreでの販売が難しくなります。一つの解決策としては、アプリケーション自体のディレクトリ内にインストールされたファイルへのアクセスは自由であることを利用して、自分のアプリ専用の音楽のシンクの仕組み(iTunesのようなもの)を作ることが考えられます。しかい、そのようにアップロードした音楽はそのアプリケーションからしか聴けないということになってしまいます。果たしてそこまでしてユーザはそのアプリを使ってくれるのか…
なぜこれほど強い制約を課したのか。レーベルからの圧力なのか、あるいはiTunesで購入された音楽のDRM解除を恐れたためか。はたまた単純に需要がないと考えたためのか。真相は分かりません。自分たちの曲はそのまま聴いてほしい、勝手にテンポをかえたり、ミックスしたりしないでほしい、というアーティスト/レーベルもあるのかもしれませんが、音楽の聞き方までユーザに強制するのは、傲慢というもの。購入した音楽を私的に楽しむ範囲において、どのように聞こうが本来はユーザの自由のはず。自由な聴取が担保されていたからこそ、DJやヒップホップなどの新しいジャンル(もっというと音楽ビジネスにとっての巨大な市場)が生まれてきたという歴史を忘れてはならないと思います。
音楽を自由に楽しみたいというユーザの声を反映して、DRMに反対する声が強まっていますが、同様に自由な音楽の聴取を制限するiPhone SDKについても抗議の声を挙げることはできないだろうか。そんなことを考えています。同様の例としては、Flashのプログラマが、Adobeに対してサウンドのサポートを強化するように訴えた、Adobe, Make Some Noiseというサイトがありました。その成果かどうかわかりませんが、Flashの新バージョンではサウンド面が大幅に強化されるということも伝え聞いてます。同じようなことがiPhoneに関してもできれば、Appleも動くかもしれません。まずは需要があるということを知ってもらう必要があります。音楽ファイルへのアクセスを求める声が強いことを知らしめるために、www.applegivememusic.orgでも作ろうかと思ってます。賛同してくださる方、ぜひコメントください!
12 Comments
Join the discussion and tell us your opinion.
たしかにそれはiPhoneの音楽の新しい聞き方を生み出す可能性を殺すものって思えます。
adobe,make some noiseは軽く知ってましたが次期フラッシュは音が強化されるんですね。アップル動いてくれたら嬉しいですね。いや動いてくれないと。applegivememusic賛同します!
賛同します。
> ユーザがiPhone内に保存しているmp3などの音楽ファイルへのアクセスが完全に禁止されている
知りませんでした。確かにこれはとても残念ですね。。
アプリの可能性をかなり潰しているように感じます。
僕はiPhoneは持たないだろう(けど欲しい)と思ったのですが、気になったので言及
iiPhoneは音楽を忘れしまったのでしょうか。ただのスマートフォンになってしまったのでしょうか。と考えてしまいました。
音楽の可能性を潰すような実装はしてほしくはないです。賛同しますよ!
驚きました。
賛同します。
最初から可能性の選択肢が狭められているのは残念な話ですね。
よくわかりませんが著作権とかが関係しているんですかね。
ああ、やはりWWDCでもそのあたりの成果はなかったんですね…。残念。
http://www.applegivememusic.orgには当然賛同します。
>この制限によって、例えば次のようなアプリの制作が非常に困難になりました。
ほんとは音楽/ビデオ/写真のライブラリをP2Pで共有するアプリでも作りたいでしょ。
あなたが作らなくても誰かが作ります。
そして、3G帯域はその手のトラフィックで年中埋め尽くされる…
普通のユーザーにとってはたまったもんじゃないです。
お願いですからくだらない運動はやめてください。
>なぜこれほど強い制約を課したのか。
あれこれ勘ぐる以前に、ベンダーとしての良識だと思うんですが。
[…] かつて音楽と呼ばれたもの « iPhoneは「プログラミングのできるウォークマン」ではなかった […]
[…] ウォークマンまでプログラミングできるようになった: #006-2「iPhoneはプログラミングできるウォークマン」(徳井)を受けての発言.しかし,iPhoneは「プログラミングのできるウォークマン」ではなかったで言及されているように,iPhoneは音楽ファイルにアクセスできない(らしい). […]
みなさん、コメントありがとうございます! 問題意識が伝わってうれしいです。
>賛同できませんさん
なるほど、そういう反応が帰ってくるんですね。P2Pは考えたこともなかったです。モバイルの環境でできることに意味があること以外は、やっても仕方ないと思っています。P2PはPCでやればすむ話ですよね。そもそも、P2Pのようなファイルの読み書きを継続に行うアプリは、バッテリー消費の問題もあって、iPhone上では実用にならないでしょう。いずれにしても、音楽ファイルへのアクセス = ファイル共有 or DRM解除 という短絡的な発想が根深いか、改めて思い知りました。
ちなみに、このコメントは僕のこれまでの活動を見た上で書かれているんでしょうか。 だとしたら、そういう誤解を与えてしまった自分の不明を恥じ、コメントを深刻に受け止めます。そうでないなら、あまりにも断定的に過ぎませんか。
コメント心から感謝します。こういうネガティブなコメントをもらうのが、blogをやっていて一番エキサイティングな瞬間だと思っています。
もう賞味期限が過ぎた話題ではあると思いますが。
iPhone内のMP3等にアクセスできないのは単純にセキュリティの問題でしょう。
日本の携帯電話の実行環境なんかも電話帳やユーザーデータにはアクセスできませんし。
開発環境がオープンになっている以上、悪質なプログラムからユーザーデータを守るためにも仕方のない措置だと思います。
(じゃあ、Appleによる審査が機能してないんじゃん?という話になりますが、またそれは別の話題ってことで。)
>ほんとは音楽/ビデオ/写真のライブラリをP2Pで共有するアプリでも作りたいでしょ。
P2Pには面白みを感じないのですが、Wifiを使ってアドホック通信で近くの人に曲を聞かせたり、自分がどんな曲を聴いてるのか、知らせたり(Last.fmのローカル版のようなアプリ)があればいいなあと思います。
オンラインサービスはもう出尽くした感があるのですが、顔の見える範囲での通信を楽しむアプリケーションって、まだまだ面白いものがいっぱいあると思うんですけどね。そういうアプリのプラットフォームとしてiPhoneがあればいいなあとか。
> ユーザがiPhone内に保存しているmp3などの音楽ファイルへのアクセスが完全に禁止されている
まったく残念ですね。。。
賛同します。