環境変換装置としてのiPhone

2008 BLOG

iPhone! とうとう発売になりました。もうすでに購入されて、いろいろと試されている方も多いのではないでしょうか。

iPhone 3Gの発売とともに、iTunesと同様の仕組みでiPhone用のアプリケーションが購入できるApp Storeもオープンしました。オープンにあわせ、僕の二つのアプリケーション 「91 (日本以外では「World 9」)と「モスキート」(Mosquito)も、公開/発売されています!! 今回のアプリは、ともに音楽アプリではなく、音を使ったある種のゲームです。

 Wp-Content Uploads 2008 07 World-9-Icon1  Wp-Content Uploads 2008 07 Mosquito-Icon-1

しばらく前のポストで、iPhoneはウォークマンではなかったと書きました。音楽ファイルにアクセスできないという致命的な制限をどうクリアするか? ここ数ヶ月の開発上の悩みはほとんどがそこに集約していたわけなんですが、いったん頭をリセットして別の角度から「iPhone = プログラミング可能なウォークマン」説を考えてみました。その結果が、上記二つの「音ゲー」です (ここでいう、「音ゲー」はいわゆる「音楽ゲーム」ではなく、あくまでも「サウンドゲーム」とでもいうべきもの)。

音楽コンテンツにはアクセスできないものとすっぱりあきらめて、ウォークマン(を含めたポータブルステレオ)が持っている「音楽の再生」以外の機能に注目してみます。具体的には、ウォークマンが取り持つユーザと環境の関係に焦点を当てました。つまり、音楽の再生によって「音楽コンテンツ」と「聴取者」の間を媒介するだけではなく、それを通して「環境」と「聴取者」の関係性を変容させる、それがウォークマンの大きな特質であると捉えたわけです。

なにも難しいことを言ってる訳ではありません。ヘッドフォンで音楽を聞きながら街に出ると、見慣れた街が違って見えた、あるいはサントラ付きの映画のワンシーンを見ているかのように感じた、という経験は誰しもが体験しているはずです。ポータブルステレオの発明者とされるAndreas Pavel氏も、発明直後からその可能性に気がついていたようで、最初のプロトタイプを持って山に登り、降りしきる雪をじっと眺めつづけたという逸話が残っています。また、そのときにこのデバイスがユーザに与える 「浮遊感」「あらゆる状況の美的なポテンシャルを増幅する」機能を持つことに気づいたとされています (Wikipediaより。詳しくは スティーブンレヴィのiPodは何を変えたのか?。ちなみに、Pavel氏はウォークマンを特許侵害としてSONYに対する訴訟を続けてきたが、2003年に推定10億円近い和解金で示談している. NY Timesの記事) 僕自身も、初めてウォークマンを使ったときのことを振り返ってみると、そのときに聞いていた音楽の内容そのものよりも、自分の中でわき起こった不思議な感情の方がずっと強く印象に残っているような気がします。
技術の進歩とともに大量の音楽を簡単に楽しめるようになっています。特にウォークマンからiPod等へと移行して、その傾向に拍車がかかりました。しかし、ともすれば持ち運べる曲数や操作の容易さなどにばかり注目して、自分の感覚をおろそかにしていなかったか…. 初めてウォークマンを持って外に出たときに感じた、あの強烈な没入感/トリップ感を、iPhoneを使って呼び戻せないだろうか、ということをまじめに考えてみます。

音楽を使うことができないのであれば、サウンドを使う。
さらに、iPhoneの持つ加速度センサやGPSなどの機能を使うことで、インタラクティブ性を高めることができる。
サウンドにインタラクティブ性を持たせることで、錯覚を与えると同時に、自由な想像の余地を与える。
音のバーチャルリアリティ!

これらを総合して、環境変換装置としてのiPhoneに注目しています。

  • 環境の知覚を変化させる
  • 環境への没入感を高める
  • 時間と空間の感覚を変える

こうしたコンセプトのもと、Audible Realities (http://audibles.jp)プロジェクトをスタートしました。サウンドを利用して、普段は見えない現実のある側面を見せる、あるいは仮想的な環境をユーザの頭の中に描く、そんなiPhoneアプリの開発/販売を行っていきます。Realitiesと複数にしているのは、現実は一つじゃない、知覚の仕方次第で変化するという点を強調するためです。


Audible Realitiesシリーズの記念すべき第一弾 – 「モスキート」

このゲームは、永野くんとの会話の中での彼のアイデアがベースになっています。ゲームではあるのですが、起動しても画面にはなにも表示されません。ただ、どこかから音が聞こえてきます。そう、夏の風物詩ともいうべき、あの耳障りな音です。3次元音響のテクニックを使って、仮想的な蚊の動きを音でかなりリアルにシミュレーションしているのが売り!! あなたが大人しくしていると、にっくき敵はだんだん近づいてきます。十分引き寄せたところで、思い切ってiPhone/iPod touch本体を振ると、「ぱちんっ」という音とともに、画面には…. あとは次のビデオを見てのお楽しみ。音に注意して、十分引き寄せるのがポイントです。iPhoneを飛ばさないように、しっかり握るよう注意してください(Wiiのようにストラップもセットで売るかな 笑)

もう一つの「91も同様のコンセプトに沿って実装しています。こちらはTaeji Sawaiくんとの会話の中で生まれました。ゲームの中に確かな目的がないという意味では、こちらの方がより元々のコンセプトに忠実と言えるかもしれません。

今回の二つのアプリ・9の1とモスキートは、それぞれフリーウェアと有料(230円)としました。二つとも好評で、特に「9の1」の方は、無料のゲームアプリの中で1位と2位を行ったり来たりしているような状態です(フリーウェア全体でも10位!!)。cnet上でも10 absurd new iPhone appsの一つに、光栄にも(?!)選ばれています。「使った人を笑顔にする」「ニヤリとさせる」のが一つの目的なので、absurdと言われるのもある意味うれしいですね。あとはモスキートの方のダウンロードがどれくらい伸びるか… なんですが、みなさんのblogなどでも、上のYouTubeのクリップ共々紹介していただけるとうれしいです。よろしくお願いします。

Picture 4

Audible Realitiesに関しては、最低でも残り二つのアプリを今月中にリリースする予定です。ぜひ今後のアプリにも注目してください。