iPhoneは「プログラミングのできるウォークマン」ではなかった
2008 BLOG
僕がアメリカに行っている間に、「いつか音楽と呼ばれるもの」がアップデートされてました。今回は先日のIAMASでのプレゼンテーションの記録です。僕のバタバタなプレゼンと、プレゼン後の赤松さんとのディスカッションの模様をすべて観ることができます。お時間があれば、ぜひチェックしてみてください。
後半のiPhoneについてのディスカッションの中で、iPhoneの最大の魅力はiPhoneが「プログラミングのできるウォークマン」だということにつきるという趣旨のことを言いました。つまり、新しい音楽の聞き方/楽しみ方を、消費者に一番近いレベルで提案することができる。しかもそれが、一介のプログラマにも (SONYやAppleの開発者/デザイナでなくても)解放されている、という点に注目しているという話でした。ところが、iPhone SDK(開発キット)を触っていく中で、これらが実は「幻想」であったことに否応なしに気づかされました。
というのも、ユーザがiPhone内に保存しているmp3などの音楽ファイルへのアクセスが完全に禁止されているためです。つまり、ユーザがiTunesを経由してiPhoneにロードした音楽ファイルを、自作のアプリケーションから再生することができない、ということです。この制限によって、例えば次のようなアプリの制作が非常に困難になりました。
- DJ/マッシュアップ – ユーザが持っている音楽を自由にミックスするアプリケーション
- 音楽レコメンデーション – 加速度センサを使って取得したユーザの歩く/走るスピードに合わせてちょうどいいテンポの曲を自動的に選択してくれるアプリケーション
- 語学 – 外国語のダイアログをスピードダウンして再生するアプリケーション
一部でDJアプリケーションなどがすでに発表されていますが、この制限をどのようにクリアしているのか、注目したいところです。なんらかの方法でハックすることも考えられますが、Appleの規約を破るとAppStoreでの販売が難しくなります。一つの解決策としては、アプリケーション自体のディレクトリ内にインストールされたファイルへのアクセスは自由であることを利用して、自分のアプリ専用の音楽のシンクの仕組み(iTunesのようなもの)を作ることが考えられます。しかい、そのようにアップロードした音楽はそのアプリケーションからしか聴けないということになってしまいます。果たしてそこまでしてユーザはそのアプリを使ってくれるのか…
なぜこれほど強い制約を課したのか。レーベルからの圧力なのか、あるいはiTunesで購入された音楽のDRM解除を恐れたためか。はたまた単純に需要がないと考えたためのか。真相は分かりません。自分たちの曲はそのまま聴いてほしい、勝手にテンポをかえたり、ミックスしたりしないでほしい、というアーティスト/レーベルもあるのかもしれませんが、音楽の聞き方までユーザに強制するのは、傲慢というもの。購入した音楽を私的に楽しむ範囲において、どのように聞こうが本来はユーザの自由のはず。自由な聴取が担保されていたからこそ、DJやヒップホップなどの新しいジャンル(もっというと音楽ビジネスにとっての巨大な市場)が生まれてきたという歴史を忘れてはならないと思います。
音楽を自由に楽しみたいというユーザの声を反映して、DRMに反対する声が強まっていますが、同様に自由な音楽の聴取を制限するiPhone SDKについても抗議の声を挙げることはできないだろうか。そんなことを考えています。同様の例としては、Flashのプログラマが、Adobeに対してサウンドのサポートを強化するように訴えた、Adobe, Make Some Noiseというサイトがありました。その成果かどうかわかりませんが、Flashの新バージョンではサウンド面が大幅に強化されるということも伝え聞いてます。同じようなことがiPhoneに関してもできれば、Appleも動くかもしれません。まずは需要があるということを知ってもらう必要があります。音楽ファイルへのアクセスを求める声が強いことを知らしめるために、www.applegivememusic.orgでも作ろうかと思ってます。賛同してくださる方、ぜひコメントください!
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