4/23 蓮沼執太フィル オーチャードホール公演へのゲスト出演

2021 BLOG MUSIC PERFORMANCE

Photo: Takehiro Goto 

2021年4月23日。蓮沼執太フィルのオーチャードホール公演にゲスト出演する機会をいただきました。

蓮沼執太さんとはかれこれ13, 4年前からの知り合いで、僕が2003年に最初(で唯一)のアルバムを出したレーベルから、のちに蓮沼さんもアルバムをリリースしたというのが最初のご縁だったと思います。それから蓮沼さんの個人での活動、蓮沼フィル等での活動の幅の広がり、ニューヨークへの移住など、その活躍ぶりは拝見していました。

その後、2019年から2020年にかけて私がQosmoとして手がけた、資生堂さん店舗向けのAI BGM生成システムの音楽面の監修を蓮沼さんにお願いしたことがきっかけで、またやりとりさせていただくようになりました。

プロジェクトが無事にローンチしたところで、「今度は同じような手法で、曲を作りたいですね」と会話したのを覚えています。資生堂のプロジェクトの場合、音楽自体が目立ちすぎず、環境に溶けこむような音楽が、毎日毎時間少しずつ違うかたちで生成され続けるという状況を目指していたのに対して、今度は始まりがあって終わりがある、楽曲としてのまとまりを持った曲を、AIを使って一緒に作れたら… なんとなくそんなことを考えていました。

そして今回、渋谷の文化村オーチャードホールでの蓮沼執太フィルの公演で演奏する曲を一緒に作らないかという、ありがたいお話をいただくことになります。(このあたりの流れについては、オーチャードホール公演の特設サイト内のページに蓮沼さんと徳井の間の会話としてまとめられているので、ぜひご覧ください)。

実際の作業をどう進めたのか、少しだけ技術的な内容も合わせて書くと…

資生堂のプロジェクトの際には、LSTMと呼ばれる比較的シンプルなAIのアーキテクチャを用いて、蓮沼さんの過去の曲やこのプロジェクト用に作曲してもらった楽曲を学習し、メロディーを生成しています。学習データが少なかったために、機械学習的にいうといわゆる過学習の状況になっているはずです。

前回はそれでも良かったのですが、今回は実際に人が演奏できる楽曲、ある程度「楽曲」として成立している音楽を生成する必要がありました。そこで今回は最新のアーキテクチャであるTransformerを用いるというシステムのアップデートを行うとともに、学習データもクラシックの有名なピアノ曲を数百曲集めて使うことにしました。そうして学習したものを、さらに蓮沼さんのデータだけで学習することでチューニング(fine-tuning)していくという、二段階の学習過程を経ています。これによって、より音楽としての完成度が高いと同時に、蓮沼さんらしい曲が生成できるのではと考えました。

こうして学習したモデルを用いて、事前にたくさんのメロディーを生成します。その中で、特に蓮沼さんと僕が気に入ったのがこちらのメロディーでした。冒頭の10個程度の音符の繋がりから、その後のメロディーを生成しています。このメロディーをもとに蓮沼さん自身がフィルでの演奏用にアレンジし、曲を完成に近づけていきます。

リハーサルで何度か事前に演奏した上で、迎えた本番当日。このプロジェクトが始まった当初は予定になかったのですが、僕自身もステージに立つことになり、生成したメロディーとともにAIで生成した環境音や生成したものの使わなかった別のメロディーの断片などをコラージュして、ステージ上でライブ・ミックスすることとしました。

本番での観客の皆さんの反応はもちろん嬉しかったのですが、個人的ハイライトは、終演後にフィルの複数のメンバーから、「AIの旋律に何かを引き出されている感覚がした」 「新しい音楽体験だった」と話しかけられた時です。何より蓮沼さんの編曲やフィルのメンバーの皆さんの演奏が素晴らしかったですね。

ゲストとして登場したヤン富田さんからアイドル、そしてAIまで、蓮沼ワールドに引き込む懐の深さに感服。音楽を楽しむ時間を多くの人と共有する喜びを久方ぶりに体感しました。機会を作ってくれた蓮沼さん、無茶を聞いてくれたフィルのメンバー各位に心より感謝。ありがとうございました!

公演後の今、考えていること。それは今回使われなかった生成されたメロディー達についてです。一度学習した音楽生成モデルからは、次のプレイリストのように無限に少しずつ違う、それでもある程度統一感のあるメロディーが生成されます。完成した一つの曲ではなく、無数の曲の可能性。この辺に次の作品のタネがあるのではないか、そんなことを考えています。。