2022年に読んだ印象に残った本

2022 BLOG DIARY

今年も残り二日となりましたが、今年読んだ本の中から特に印象に残った本をご紹介いたします。

“Ways of Being: Animals, Plants, Machines: the Search for a Planetary Intelligence” (2022)
James Bridle

AI技術の発展によって、人「以外」の知能の可能性について注目が集まる中、動物や生体界全体が持つ知能について考察した一冊。 著者のJames Bridleは、AIを扱ったインスタレーション作品などでも知られるアーティスト、作家です。
物理的なショックを与えられた記憶を保存し、反応する植物。一つの根から分岐し40ヘクタールを占める広大な領域に生息する世界最大/最古の生命体Pandoや菌類が張り巡らす情報ネットワーク。ある鳥の習性を上手に使ってハチミツを集めるモザンビークの種族と鳥の共生関係。環境と人を対置するのではなく、自然環境が人とその知能を包含しているという新しい知性観、More than Humanな知性のあり方を提示しています。
このMore than Humanという言い回しは2018年に参加したバービカンセンターでのAIに関する展覧会でも使われていた言葉なのですが、単純に人間よりも良い(上にある)という意味ではなく、人間の知能のあり方を包含するより広い知能のあり方というニュアンスの言葉だったんですね。当時は違和感を持って聞いていたのですが(AIと人の知能は比較できないはず)、この本を読んでやっと理解してました。
邦訳が待ち望まれる一冊です。

『知能低下の人類史: 忍び寄る現代文明クライシス』 (2021)
エドワード・ダットン, マイケル・A・ウドリー・オブ・メニー

この本は今年読んだ本の中でも、一番物議を醸す類の一冊かもしれません。

スマートフォン、インターネット、SNS、ゲーム、「 」(←自由に埋めてください)によって、人々は愚かになっている。最近の若者は本も読まない/読めない。etc etc テクノロジーの発展が知能に与える影響についてはさまざまな言説がある中で、本書がユニークなのは、人類の知能はとっくの昔にそのピークを過ぎていると主張している点です。
詳しい内容は本を読んでいただくとして、長期にわたって人々の平均的な知能指数を定量的に測れる方法を考案、過去数百年の結果をまとめた結果として、人類の平均的な知能は、産業革命前にピークを迎え、それ以降は一貫して低下を続けていると主張しています。
その理由としては、技術革新がもたらした衛生状況や医療技術の進歩、人権意識の向上や福祉国家の誕生によって、以前であれば子孫を残せなかったであろう層が子孫を残せるようになったという点を挙げています。

優生学のような議論になりがちなので注意して読む必要がありますが、AIツール等が人の知能に与える影響について考察する上で示唆に富んだ一冊だったのは間違いないでしょう。本書を出版した著者・出版社の勇気に感謝したいと思います。

『新装版 世界の調律: サウンドスケープとはなにか (平凡社ライブラリー)』 (2022) 
R.マリー・シェーファー

1986年に出版、長らく絶版になっていた本が新書として復刊!

ちょっとニューエージ的なサウンドスケープ論だと思ってたら(失礼)、もっとずっとスコープが広い本だったという嬉しい驚きがあった一冊です。

人を取り巻く「音」が時代、社会体制とテクノロジーとともにどう変化してきたか、それが時代精神とどう相互作用しているか、音楽に与えた影響などなど。サウンドスケープとは何かというサブタイトルはむしろミスリーディングだとすら感じました。音、音楽に関わる人は全員読むべし。
ギリシャ、ローマの古典からマクルーハン、バッハからジョン・ケージ、ビートルズまで引用の幅はとてつもなく広く博覧強記って感じですが、ぜんぜん嫌味がなく、むしろ読んだ後に自分の視野がスッと広がるような、気持ちよさ。カールソンの『沈黙の春』を読んだ時の感覚に近いかもしれません。

“Dilla Time: The Life and Afterlife of J Dilla, the Hip-Hop Producer Who Reinvented Rhythm” (2022)
Dan Charnas 

言わずと知れた天才プロデューサー、ビートメーカーで2009年に惜しまれながら夭逝したJ Dilla (Jay Dee)の伝記。Dillaの少し複雑な家庭環境、当時のデトロイトという都市の特殊性などから、Slum Villageなどのグループやソロ活動での成功などを丹念に辿っていく。特にページを割いているのは、クオンタイズ機能を使わないことによって生まれるヨレたビート (The Rootsの?estloveが酔っ払った三歳児が叩いたようなリズムと評したことは有名) が生み出すDilla特有の時間感覚について。ヒップヒップのみならず種々のダンスミュージックのプロデューサー、ジャズなどの演奏家にも影響を与え、亡くなった後も続く、Dillaの時代、Dilla Timeについての理解が深まりました。
個人的には、毎朝9時にはスタジオに入って、しっかりスタジオの掃除をしてから、夕方までビートを作り続けたというDillaの日課、ルーティーンに強い興味を持ちました。天才と称されることの多いDillaの作品が、地道な日常の繰り返しの上に成り立っていたことがわかります。
亡くなる直前にリリースされたアルバム、Donutsのサンプリングソースやそこに込められたダイイングメッセージを読み解くジョーダン・ファーガソンの『J・ディラと《ドーナツ》のビート革命』もおすすめです。

『われら闇より天を見る』 (2022)
クリス ウィタカー

今年もミステリー、推理小説の類をたくさん読んだんですが(『殺しへのライン』『捜索者』『魔王の島』『キュレーターの殺人』…)、間違いなく今年はこれが一番でした。

30年前に少女が命を落とした事件がいまだに重い影を落とすアメリカのとある田舎町が舞台。その犯人として収監されていた男が刑期を終えて出所するところから新たな事件が引き起こされていきます。ミステリーの体を取りつつもその枠にとどまらない一冊でした。アメリカ社会の今が透けて見えるような感覚。それぞれに心に傷を負った登場人物たち。それでも人はやり直せる、人、人生への希望を持って読み終えました。これだけ泣いたミステリーは記憶にないかも。なんとなくジャニーン・カミンズの『夕陽の道を北へゆけ』を思い出しました。

『プロジェクト・ヘイル・メアリー』 (2021)
アンディー・ウィアー

映画「オデッセイ」の原作『火星の人』を書いたAndy Weirの一冊。エネルギーを吸収する謎の微生物の繁殖によって、太陽の明るさが減少、氷河期の危機を迎えた地球を救う大役を任された主人公。人工冬眠での宇宙の旅の後でたどり着いた異なる恒星系で出会うことになる異星人も、故郷で全く同じ問題を抱えていて、二人?は協力して問題解決にあたることに。全編を通して一貫する軽妙な書きっぷり、異星人と育まれていく種族を超えた友情… 独特の読後感を与えてくれた一冊です。ライアン・ゴズリング主役で制作中という映画も楽しみです。

その他

最新の本ではなかったりしますが、今年読んで印象に残っている本

動きそのもののデザイン リサーチ・スルー・デザインによる運動共感の探究

計算する生命

スノウ・クラッシュ〔新版〕 上 (ハヤカワ文庫 SF ス 12-11)

In Our Own Image: Will artificial intelligence save or destroy us? (English Edition)

生物から見た世界 (岩波文庫)

全体的にはもう少し本を読む時間をとりたかったなというのが改めて振り返ってみての感想です。展示やパフォーマンスの準備であまり研究に繋がる読書に時間を割けなかったのが心残りではあります。そこは来年の改善点ということで… 

みなさん、どうぞ良いお年をお迎えください。2023年もよろしくお願いいたします。